死線を越えて(上巻)
1920年に出版、一大ベストセラーに!
他人のために自己を捧げ尽すというキリスト教的隣人愛を実践した
著者の自伝的小説。
主人公の働きは万人の胸をうつことだろう・・・
著者:賀川豊彦
監修:今吹柳乃助
価格:¥1,890 (税込)
ISBN4-9903887-2-0
第一次世界大戦が勃発して企業は資本の集積が募る反面、労働者は労働法の無い時代であったから奴隷のように働かされていた。
自然、資本家と労働者の格差は甚だしく、何の保障も無い下層階級労働者は食も満足に得られない状況だった。
大正9年10月3日。
突然出版された1冊の書物は、労働者の援軍のようにそれらの人々の立場に立って出版された「死線を越えて」だった。
燎原の火のように国内の読者のこころを捉えていった。
賀川豊彦のキリストの愛の実践は極貧の社会の中で光となって輝きだした。
読むものの心の琴線に響いていった。
神の悲願を己に映して仕える生き様は机上の宗教神学を超越していた。
「貧しき者は幸いなり」イエスの言葉は賀川の書を通して人々を信仰の喜びに誘っていく。
生きるにやっとの病におかされていた神学生、賀川豊彦が飛び込んだ貧民屈は、彼の病状に似て悲惨だった。
が、入所する翌日から子供たちを集めてのクリスマス祝会で始まった。
その後、次々と彼の部屋には宿無し人が共に寝起きするようになる。
病人を見舞うと共に、医者に行って薬を取ってきては介護する。
学校に行けない子供たちに勉強を教える。
喧嘩の仲裁、酒乱の男のなだめ役。
自室を開放して教会とし聖書講和。
瀕死で担ぎ込まれた病人が最後に「天のお父様の」ところにこれから参りますと、最後の言葉をいって他界した男の言葉に賀川は泣いた。
男の改心が嬉しかった。
四歳で父を、五歳で母を天に送り、めかけの子といじられ、本家に預けられた妹との生活は子供心に辛かった。
ローガン、マヤスという二人の宣教師の導きでキリストを信じることによって傷ついた心は深い慰めを得た。
徳島中学を卒業した時、明治学院神学部に入学すると叔父に告げると、烈火のごとく怒鳴られ叔父宅から追い出される。
やむなくマヤス宣教師夫妻はわが子のようにして賀川を引きとる。
明治学院ではあらゆる和書洋書を読破する。
この読書力がアメリカに留学した時の入学試験で試験管の度肝を抜く事になる。
進化論がテストの課題だった。
試験管はダーウインあたりだけではダメだと言い切って席を立つ。
賀川はこの時48冊の著者と内容を記録しテスト用紙を埋めるのだった。
プリンストン大学で注目され話題になった入学試験であった。
明治学院から神戸神学校に行ったが肺結核は最悪の状態で医者も死亡証明書を書きあきらめていた。
が、まさに奇跡的に不思議な体験をして死を免れることになる。
貧民屈で日曜学校を開くと、ウイリアム博士が毎月20円の補助をしてくれる事になった。
こうなると貧者、無職の者の強請り、たかりの日々が跡を絶たずに来る日が続く。
四月になると郷の義母お久が病気との事でお久を貧民屈に引き取ることにする。
本家は兄の放蕩ですでに倒産していた。
栄一が密かに思いを寄せている女性がいた。
徳島の教会では奏楽をしていて美貌の持ち主鶴子は上流家庭に育てられていた。
栄一が貧民屈に入るため大八車に荷を乗せてひっぱている所でばったり出くわせた。
あんなに親しかった鶴子は一生結婚もしないし、山の中の小学校の先生になると言って栄一に別れを告げる。
栄一は後ろを振り返らず涙を地面に落としながら失恋する。
貧民屈は南京虫の夜毎の襲来に睡眠をそこねる。
コレラも流行し病院の見舞いに栄一は奔走する。
試験の最中に「もらい子殺し」という事が頻繁に起きる。
これは育てられない不慮の赤子を金銭を貰いうけ子供を預かりその子を餓死させるのである。
栄一はこのため子のために葬儀を執り行っている。
常習犯が警察に捕まったとの事で栄一は警察に駆けつけその赤子を引き取って死をまぬがれさす。
が、引き取った赤子を背負い昼夜乳をもらい歩き、寝ずの看病もする。
栄一のところには次々と転がり込んでくる者が絶えない。
青年も教会に集まってくるようになった。
そんな中火薬工場で働く女工に無慈悲な搾取の実態が判明して、これでは労働組合をつくらねばならないと言う事になった。
栄一も知恵を与える事になる。
時に栄一に心寄せる芸姑小秀が現れる。
貧民屈にもあしを運ぶようになる。
栄一の嫁になりたいと思いを寄せるが栄一は暗に申し出を断る。
明治学院の同窓がくるようになる。
この男は思想犯の事件に関係があったことから栄一まで高等特殊刑事の訪問を受けるようになる。
暮れも近くなった頃から印刷会社の女工の樋口喜恵子と言う女性が妹を連れて教会に来るようになった。
クリスマス祝会には百人の乞食を招いてご馳走する事になった。
ウイリアム博士も神戸教会の婦人会の人々も手伝いに来てくれる。
が、当日になると120名の乞食が集まり、食べるだけ食べると持ってきた器に料理を入れて持ち帰る者や、エプロンに料理をいれて持ち帰る有様で婦人会の人々はあざ笑う中、樋口さんは乞食に同情し給仕する。
その姿を見ていた栄一は涙をさそわれる。
その高貴な姿は聖書に出てくる聖女の姿にイメージされた。
樋口さんはそれから毎日昼休みの30分を利用して女工3~4名連れて教会に遊びに来る。
栄一にはいつも親切にしてくれる。
マッチ工場で女工として働いている者が仕事中火傷をした。
会社は女工の過失の一点張りで何も面倒を見てくれない。
別の女性が燐毒で死んだ時も香典も会社は出さなかった。
賃下げを二度もやる。
245名の職工がストライキを起こす。
栄一も激励し従業員2名と共に会社に行き社長と専務に会い、栄一に教わった要求書を出し掛け合う。
社長と専務はこれを拒否し、二人を其の場で解雇通達する。
予め会社は刑事を同伴させておいて怒った従業員が社長の胸倉をつかむとその刑事が二人を拘引していく。
栄一は貧民屈に帰りこのことを従業員勝之助の家に報告する。
さらに火傷した少女を見舞い医者を呼んで手当てする。
ストライキは尚一日続くが少女は死ぬ。
栄一は少女の葬式をする。
樋口さんが葬儀の手伝いに来てくれる。
葬式が済むと、主任刑事が栄一を呼び出す。
栄一は神戸裁判所検事局の廊下のベンチで独り神に祈る。
「死線を越えて」上巻