一粒の麦
昭和4年 発売開始で30万部突破のベストセラー!
賀川豊彦 珠玉のノンフィクション小説!
著者:賀川豊彦
監修:今吹柳乃助
価格:¥1,680 (税込)
ISBN4-
主人公嘉吉の実家は貧しく姉は芸者、妹も娼婦に売られていた。兄は警察官を殺し弟はカリエス病で寝たきり、父親はアル中で半身不随、あとは母親と妹の家族という生活であった。嘉吉は19才になるまで材木問屋の鳶職に出ていたが色情におぼれ、店の売上金を使って故郷に逃亡する。ある日鍛冶屋のお上さんにキリスト伝道所の集会に誘われる。
やがて天地創造の神の存在に劇的に回心する。母親から先祖の墓参りを頼まれ、行った先の叔父宅に結婚前の娘達が常連の客となって遊びに来ていた。溌刺とした健康美の女工芳江に出会う。これがやがて運命の出会いと発展。郷里に帰った嘉吉は伝道者の影響で弱者への救済を思う人間へと変貌、さらに郷里の農村改革を実践する魂の青年へと成長する。
やがて嘉吉に招集礼状がきて甲種合格。入隊を備える日々の中、芳江から真面目で熱烈な恋文を受け取る。芳江の純粋で一途な心に嘉吉は惹かれる。入隊間近になったある日、芳江は嘉吉が入隊した後の一家の生計が大変だろうと心配し、嘉吉が除隊するまで一家の面倒を見させてくれと申し出る。この報いを望まない無垢な芳江の心に嘉吉は「神様が与えてくれた天使」と心底芳江の厚意を感謝して受ける。入隊後芳江は機織りで生計の援助をする。早朝4時には起床、家族の食事作り、義父、義弟の世話を喜びとして深夜まで機を織り続ける。嘉吉一家に捧げる姿に村人も羨望の眼差しを芳江に向けるようになる。
生命を賭して働く芳江の魂の根源は信仰にあった。だが、あまりに過酷な労働の日々にさすが強健な芳江の身体も急激に疲弊し、もはや回復困難な状況になっていた。
『大きな犠牲、余りに尊い犠牲、誰に賞賛されるでもなく、自ら進んで前科者の集合している一族に奉仕する事を誓い地位も名誉もない山村の青年を選んで、自ち捧げた日本の処女を、彼は賛美せざるをえなかった。一日に4時間しか眠らずに他人の父のために2週間も徹夜して看護に専念し、雪の中に、手にひびをきらしながら機を織り30余円の金を姑に捧げる。この可憐な日本の処女のために、彼は人に聞えない程度で男泣きに泣いた。理想の処女、天上のマリアの再生、その高貴な魂が今、地上を離れて天国に帰らんとしている。地球上の何人にも、その偉大さを気付かれずして彼女は過ぎ行く、神の愛に魅入られた清浄の処女、嘗て肉をよごさなかった天上の白百合、彼女はその短い一生を終えて今天上に帰らんとしている』-
本文より